二月十三日
1969.2.13
山崎さん、
ごぶさたいたしております。
ニューヨークは大雪で月火は交通マヒ、ほとんどの会社も休みとなりました。停電とか、大雪とか、には大変弱いニューヨークです。画廊も新しいものゝネタギレと言った感じで、面白いのはドワン ギャラリーぐらいのもの。ダーカンジェロの個展(フィッシュバッハ)、マスキングテープの使いかたばかり馬鹿にうまくなった感じで さほどの新鮮味は感じられません。ホイットニーのアニュアル ショー、立体のさかんなこの頃の事、大変期待したのですが、選ばれている作品の質が良くないのにがっかりしました。選考への非難もあるようです。もっと良い作品があるはづですし、もっと良い「方向」も画廊など見ながら感じられるのですが、——
川端さんがベティーで個展を開きました。作品の明確さえと向いながら、長い事、ほんとに長すぎるほど、表現的なブラッシュ ストロークのなごりのようなものを、のこした仕事をしていました。ところが今度は、まるっきりハードエッジの作品に変ってしまい いさゝか驚きました。しかし、良く見ると、本質的には表現的である事に変りはないようです。その点がハードエッヂの作家と根本的に違うところでしょう。
新しい動きをいち早く鋭敏にとらえる、変り身の早さと、すぐれたテクニックを身上とする川端さんがニューヨークへ来て ハタと困った事と思います。新しいものとは、未知のものでなければならづ、まわりの作家達は、テクニックとは無縁な、ぬけぬけとした絵ばかりだったのですから。川端さんが長いあいだ変れなかったのは、それを良く承知したからでしょうし、又、承知の上で今度変ったのですから、色々と考へるところあっての事でしょう。実際問題としてハードエッヂと、プライマリー ストラクチュアーは、今のニューヨークでは、まったく、あきあきした感じですので その意味での新鮮味はないのですが、ほとんどのアブストラクト エックスプレションの作家がこのニューヨークから消えて行った中で 生きつゞける、古いタイプの作家の一つの方向として注目されて良いと思います。ニューヨークでは、デビューした作家が、長く生きつゞける事は、デビューする事以上にむつかしい事であるかも知れません。写眞をとりましたので 川端さんが送られた事と思います。日本でこの写眞を見てどのように感じられますか?
昨年末は、美術手帖の宮沢さんがニューヨークへ見えました。僕と同い年と聞いて、びっくりしました。アメリカ現代美術に対して、まいちもんじに進んで行く感じで、大変意欲的で——僕などは、中途半端で アメリカを横目でながめているように感じて、変な気がしました。
ペギー グッゲンハイムのコレクションはすばらしいですね。
ジューシ ミユジアムのヨーロップ ペインターの展覧会、なつかしい作家が多くてその点では面白かったのですが 昔好きだったシューマッハなどほんとにつまらなく、がっかりです。良い作家はほとんど、アメリカで活躍している人達で、もしこの展覧会がヨーロッパの現状であれば 現代美術が、アメリカへと移って来た事も、あながち、マーケットの問題だけではないと思わざるをえません。
いつものように吉祥寺へ送っていたゞければ結構です。では又、お手紙いたします。
近藤竜男
二月十三日
「ニューヨークにおける「ヨーロッパの画家達」展」
ニューヨークのジューシ ミユジアムでは一月二十一日より三月十六日まで、「European Painters Today」展を開催している。最近のヨーロッパの主だった動きを代表する四十九作家、八十二点が九ヶ國より出品されており、マグリット、マッタ等から、フォンタナ、ベーコン、シューマッハ、スガイ、バッサレリー、ブリジット、ラリー、等。二点の作品を出品している菅井汲も、ニューヨーク タイムスで写眞を記載するなど、注目された。ちょうど、グッゲンハイム ミユジアムで開かれているペギー グッゲンハイム コレクション展に見られる作家群の、後を継ぐ世代と言ふ事になるわけだが、そこに見られるよどんだもどかしさは、アメリカ現代美術と比較してと言ふ事ではなく、ペギー グッゲンハイムのコレクションと時を同じくして見た時に、皮肉な対象としての姿を見せてくれるようである。
「ニューヨークで展示された、ペギー グッゲンハイム コレクション」
ベニスにあるペギー グッゲンハイムによるキュービからアブストラクト エックスプレショニズムにいたるコレクションは、その質、量、ともにもっともすぐれたものゝ一つであるが、この一月から三月二十三日まで、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で開かれている「 The Peggy Guggenheim Collection」展は、このコレクションがアメリカにおいて展示される最初のものである。ピカソ、モンドリアン、キリコ、エルンスト、ミロ、マグリット、ポロック等、百二十六点の絵画彫刻が展示されており、そのコレクションの質の良さは、多くのこれらの作家の作品を見慣れたニューヨークの人達も、あらためて目をみはる作品群であった。