12月2日(1961年)

山崎省三様

　大変、御無沙汰いたしました。ニューヨークもすっかり寒くなり 二三度パラパラと雪が降りました。
　こゝの所、個展は、ローシェンバーク、フォンタナ、マッキャレリー、ミロー等の後、春の終りまでは面白い展覧会がつゞきます。しかし、僕の見たかぎりではづいぶん失望する展覧会もたくさんあります。スーラージュ、ザウキー、フォンタナ、等も、あまりにキレイすぎると言ふか、商品のニオイがどうしても鼻につきます。スーラージュ、ザウキーはクーツ ギャラリー、フォンタナはマーサー ジャクソン、と言ふせいもあるかもしれませんが。・・・絵商がそのような絵を画かせるのか? 自分からそうなって行ったのか、あるいは僕の見かたがあまりに画学生的なのか? 絵も ある一面では商品にちがいないわけですが・・・　でも、同じクーツ ギャラリーでも マッキャレリーの個展は大変感動しましたし、その同じ環境の中でも、やはり良い物は良いと思いました。
　モダンアート ミユジアムは今 マチスとシャガールのステンドグラス(シャガールは寫眞をとってはいけないようなので、ミユジアムの知人に聞いて見て、良いようでしたら送ります)。
　又、グッゲンハイムが、アメリカの現代作家展。モダンアート ミユジアムのシャガールの前に、コラージュ展(大変大きぼな展覧会で、ダダからピカソのコラージュ、ローシェンバーク、デュビッフェ、ネーベルソン等、現代にいたるまでの異質の素材を使った作品をもうらしてありました)。
　実は、皆寫眞は、1ヶ月ぐらいも前から取ってあるのですが、どうも貧乏ひまなしで、学校 アルバイト 制作の三本立。大変いそがしく、取りっパナシになってしまいました。作品の作家の名前をわすれてしまったり・・・ついぼやぼやしている内に、大変おくれてしまいました。今日 取りあえづマチスだけ御送りします。明日、コラージュの寫眞をお送りします。もうトピックとしては少しおそいかもしれませんが、又なにかの機会に作品の寫眞が使えるかも知れませんから・・・
　日本を立ってから半年。そろそろ、日本の事がぼけて来ました。アサヒジャーナルと週間朝日しか読まないで、しかも英語はわからないと来ているので、日本は不景気らしいぐらいの事しかわかりません。
　川端先生は、あいかわらづハリキッテ制作していらっしゃいます。週に二回、ニュースクールと言ふ僕の行っている学校へ教えに行ってらっしゃり、後の時間は全部制作にあてゝらっしゃいます。絵かきが絵だけかいて、生活していると言ふ事は、大変うらやましく感じられますが、又、なかなか出来ない大変な事でしょう。
　では又御手紙します。何かの機会がありましたら、原稿の〆切日を御知らせ下さいませ。乱筆乱文お許し下さいませ。

前略
　どうも一度に現像するひまがなく、バラバラになってしまい申訳ございません。
　グッゲンハイムの寫眞お送りいたします。少々、現像オーバーになってしまいましたが、良ろしかったら御使用していたゞければ幸に存じます。
　どうも原稿がいつも時期遅れになってしまい申訳ありません。今度から早く送るよう心掛けます。

　ニューヨークのグッゲンハイム美術館では ABSTRACT EXPRESSIONISTS IMAGISTS と言ふ展覧会が10月13日より11月の31日まで開かれた。アメリカで現在活躍している抽象作家——デクーニン、フランツ クライン、サム フランシス、ジャスパー ジョーンズ等—— が一人一点づつ、64作家が出品している。アメリカの抽象系の現代作家の動きが1目で見渡たせる、大変興味深い展覧会であった。
(この展覧会のジャスパー ジョーンズは 僕達が知っている作品とはまるで違う作品でした)