10月7日(1964年)
1964.10.7
山崎省三様
御手紙有難うございました。
ゴッホの原稿、10月号に掲載下さったと聞いて、ガタガタの文章なので なんだか、少々心配になって来ます。—— 本当に有難うございました。御好意感謝いたしております。
こゝのところ、ちょっと、たてつゞけに作品を作り、新しい作品が10点ほどになりました。今度写眞を取って、お見せします。
先月は、ワールドスナップの原稿になるような物がなく、お送り出来づ申訳ありませんでした。今、アイオー、猪熊さん等が個展を開いています。
ポール ジェンキンスの個展が東京ギャラリーであるそうですね。ジェンキンスは、マーサー ジャクソン ギャラリーの作家で、おそらく、アメリカでも もっとも良く賣れる作家の一人でしょう。最近の仕事はきれいになりすぎて、まったく賣絵と言った感じですが——作家のあいだでは、評判が悪いのですが、ギャラリーにとっては、ドル箱作家なのでしょう。日本でも同じでしょうが、作家に評判の良い作家と、ディーラーに評判の良い作家と言ふのは又、違うのでしょう。
そのポール ジェンキンスの通訳として、カネミツ マツミさんと言ふ人が、日本へ行きます。日本では、あまり知られていない人なのですが、御存知ですか? 今度、25年らいの歸國とかで、楽しみにしているようです。ステファン ラディッシュと言ふギャラリー(良いギャラリーで 新人を育てるのが非常にうまいギャラリー)に2年ほど前までいた人で、アブストラクト エックスプレションの作家の中では、かなり、みとめられた作家です。ミユジアムにもかなり作品が入っていて、僕も、アリゾナのミユジアムでも 彼の作品を見ました。アメリカ画壇の内情は非常にくわしい人です。ジミー鈴木などよりは、づっと良い作家です。日本に彼がいるあいだに一度、お会いになっていたゞけますか? 日本の作家や、批評家も色々と世話になった人が多いのですが、どう言ふわけか、日本へ歸ってからは、その事を言いたがらないようです。3、4年前に クライン、デクーニン等、アブストラクト エックスプレションの作家や、ビートの作家や詩人達と、本当に親しい日本人と言ふと カネミツさんぐらいしか居なかったかと思います。日本語も少々おかしい時がありますし、調子が出ると、オーバーになったり、法螺をふいたりする事が多いので(そんな事を言ってはわるいのですが)そのつもりで彼の話を聞いて下さい。お忙しいところを恐れ入りますが、時間がありましたら一度会って見て下さい。面白い話が聞けると思います。
レコード、二三日中にお送りいたします。今シーズンのニューヨークの音楽会は、ベルクの作品がプログラムにだいぶ入っていて、メトロポリタンで「ボツェック」をやるし ボストンがコーガンのバヨリンで「バヨリンコンチェルト」を、フラデルフィヤが「3ピーセス」等を、ちょっと面白そうです。
ニューヨークも日ごとに寒くなります。秋がはっきりあるわけでなく、いきなり冬になってしまふような感じです。春には、ニューヨークへいらっしゃるとの事。楽しみにしております。6月の中頃から9月までは、まったく、なにもありませんから、夏はさけられた方が良いと思います。何か僕で出来る事がございましたら、何でもおっしゃって下さいませ。出来るだけの事はいたしたいと思っております。
では又、御手紙いたします。
近藤竜男
執筆日について、東京画廊のポール・ジェンキンス展会期が1964年10月19日–10月31日であり、金光松美氏がその展示に際して帰国するとの記述、文中のレコードの送付を報告する次の手紙64 10 21 096の日付などから、執筆日を1964年10月7日と推定。