10月24日(1962年)
1962.10.24
山崎省三様
原稿大変遅れてしまい申訳ございません。
リンカーンセンターのフィルハーモニック ホール、トビーの個展、オスゴート ギャラリーにおける日本人作家の作品展、グッゲンハイム美術館の「Modern Sculpture」展及び、ギャラリー オブ モダンアートの写眞等御送りいたします。
「Modern Sculpture」展の方は、来年の1月まで、ギャラリー オブ モダンアートはまだ建造中ですので それほど急ぐ事は無いと思いますが 後の二つが大変遅れてしまいました。
リンカーンセンターが全部完成すると ちょっと素晴しいセクションになりそうです。ニューヨークは、いつでもどこかを、こわしたり建てたり。バカでかいビルが ニョキニョキと建って来ます。東京と感じが良くにています。
新築のフィルハーモニック ホールにバーンステイン、ニューヨークフィル、と言ふのは、いかにもアメリカ的です。バッハを聞いた時は、後の曲がチョスタコビッチなので、やに沢山並んだ楽員のイスが(ブルー)やにキレイで、それがステージに立っている星条旗と変んな具合に調和して、どうも曲を聞く前から気持がはぐれてしまいました。チョスタコビッチ(第七)はもともとキライですが、弦がすごくキレイなほかは、どうも大げさ過ぎて、ついて行けません。ボストン、フィラデルフィヤ、レニングラード、等のオーケストラ、クレンペラー、オルマンディー、ミュンシュ、オイストラフ、カッチェン、フランチェスカッティー、等と、プログラムはなかなかにぎやかですが、僕のアルバイトが夜のため、なかなか聞きに行けません。ジャズを聞くには誠に都合が良いのですが、——
この前秋吉とし子がハーフノートと言ふジャズスポットに出ていましたので行きましたが、日本人は全々いないかわりに結構彼女のファンのアメリカ人もたくさんいて賑やかでした。あの人もよく頑張りますが、日本人のジャズプレヤーでも実力があれば、そうしてファンが出来 差別しないところは、アメリカの大変良いところだと思いました。
トビーの展覧会は最近もっとも感動した展覧会の一つです。おかしな話ですが 芸術家だな、と言ふ感じを一番強く受けました。まわりが長い間だ構わなかったゝめにむしろ自分自身に素直に生きて来れたのかも知れません。一つ一つは小さい作品ですが会場全体のもつ「眞面目さ」は、一つの作品をとり出して良し悪しを言ふ事の出来ないような一貫性があります。これほど堅牢な自個の世界を作り上げた作家も少ないと思います。
グッケンハイム美術館「Modern Sculpture」
Joseph H. Hirshhornの彫刻コレクションより444点を展示した「Modern Sculpture」と言ふ展覧会が10月の3日より1月6日までの期間、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で開かれている。今度の展覧会は「コレクションの性格の表現」「会場効果」等に特に多くの努力がはらわれ、彼の膨大な彫刻コレクション中よりその一部が選出されたそうである。作品はロダン、マイヨールからドーミエ、モジリアニー、マチス、ピカソ等の画家の作品、マリノ マリーニ、ヘンリー ムアー等から、セザール、パウロッツイ、チェンバレン等にいたる現代作家までのほとんどの作家の作品が網羅されている。同時にコレクションの中には、彼の関心を呼んだ無名作家の作品も多く、日本人作家では、今年、ラディッシュ ギャラリー(Radish Gallery)で第1回目の個展を開いたODATE TOSHO(名前の漢字がわかりません)の木彫「TOKOBASHIRA」も含まれている。多くのコレクターが一ツの時代なり、作家なりに傾倒する中で、その幅の廣さと内容の充実、又 その量の多さは驚くべきコレクションである。
[ スケッチあり ]
マーク トビー作品展
1961年第29回ベニスビエンナーレ展での受賞、パリのMusée des Arts Décoratifsの回顧展等において始めて國際的に評価されたと言えるマーク トビーの作品展が9月12日より11月4日まで ザ ミユジアム オブ モダンアートで開かれている。作品は過去20年間の「ホワイト ライティング」の作品を中心に135点が展示されており、墨絵、油絵及びテンペラと油と併用した数点をのぞきすべて、テンペラと水彩の作品である。小さい作品の中に凝縮されたトビーの世界は、大作主義の多い現代アメリカ絵画の中において、むしろ非常な充実感と、ユニークなものを感じさせる。1951年ホイットニー ミユジアムで開かれた回顧展いらい始めてのニューヨークにおける大展覧会だそうで アメリカにおけるトビーの評価が今までむしろ低過ぎたのではないかと思われるほどである。
写真は会場、
[ スケッチあり ]
リンカーンセンター フィルハーモニック ホール
リンカーンセンターのフィルハーモニック ホールについては ちょっと資料不足で十分な原稿が書けませんのでわかっている所だけ書きます故、御使用の折は文章に書きなおしていただけませんか?
Lincoln Center for the Performing Arts
1. The New York State Theater
2. Metropolitan Opera House
3. Vivian Beaumont Theater and Library-Museum of the Performing Arts
4. Juilliard School of Music
5. Philharmonic Hall
[ スケッチあり ]
からなっており、今度出来たのはPhilharmonic hallです。
(ほかはまだ出来ていません)
同封の写眞は正面より見たフィルハーモニック ホールと もう一枚は建造中のthe New York State theater、Metropolitan Opera House及び完成したPhilharmonic Hallです。
フィルハーモニック ホールのオープニングは、9月23日、午後9時より、ニューヨーク フィルハーモニック、バーンステインの指揮で
1. Beethoven
Gloria from Missa Solemnis in D Major Op.123
2. Copland
Orchestral Connotations
これは、リンカーンセンターのオープニングを祝う曲を ニューヨークフィルがコープランドに委託したようです。初演です。
3. Vaughan Williams
Serenade Music
4. Mahler
Symphony No.8 in E-flat Major. Part 1-Veni Creator Spiritus
が演奏されました。
フィルムハーモニック ホールの設計はたしかMax Abramovitzだと思います。
今までの大くのシンホニックホールのような、重々しい感じはぜんぜんなく、スッキリしてむだがありません。座席は2646シート、かなりゆったりと空間をとってあり 気楽な感じです。大変キレイですがちょっと会議場かテレビのリサイタルホールの大きいような感じがしないわけでもありません(僕個人の感じですが)星条旗がステージに立っていたりするからかも知れません。
ようするに威圧感のようなものが全々感じられないホールです。入口を入ったところが吹抜けになっており、Richard Lippold(リッポルド)の巨大な空間彫刻が づっと天井にさがっています。建物がガラスばりのため、外からも見る事が出来、又、かく階のプロムナードからも見えるようになっています。
[ スケッチあり ]
オスゴート ギャラリー
JAPANESE ARTISTS
[ スケッチあり ]
ニューヨークの137 WEST 55 StreetにあるOsgood Galleryでは、JAPANESE ARTISTSと言ふタイトルの展覧会が9月17日より10月の29日まで開かれている。脇田和、糸園和三郎等から、伊藤隆康、長谷秀三等の若手作家をふくめた14作家の油絵、彫刻が展示されている。写眞はその会場。
(この展覧会は、日本橋ギャラリーの小島さんがこちらへもって来られた展覧会です。ニューヨークでお会いしましたが、こちらへギャラリーを作る事を考へていられるそうです)
GALLERY OF MODERN ART
ニューヨークの59丁目、コロシアムの近くに、GALLERY OF MODERN ARTと言ふ美術館が建造されている。アメリカ有数の大スーパーマーケット A&Pの持主のコレクション THE HUNTINGTON HARTFORD COLLECTIONが重きをなすようで、完成すると、ザ ミユジアム オブ モダンアートに対して、もう一つのモダンアートのミユジアムがニューヨークへ出来る事になる。設計は、EDWARD DURELL STONE。窓の無い白色の弧をえがいた壁面が大変美しい。[ 建物外観のスケッチあり ]
大変乱筆にて失礼いたしました。ニューヨークはもうすっかり冬支度、オバーを着ないと寒いほどです。秋をたのしむと言ふような事はまったくありません。でも、これからシーズン、良い展覧会が有るかも知れません。では寒さにむかってくれぐれもお体を御大切に。敬具