No 28 1962
1962.10.11
山崎省三様
御無沙汰いたしました。
先日は原稿料の御送金有難うございました。猪熊さんの個展及び、シドニー ジャニス ギャラリーにおける、ニューリアリスト展の原稿御送りいたします。
ニューリアリスト展のメンバー(アメリカ)はこゝ1、2年、レオ キャステリー、グリーン ギャラリー、マーサー ジャクソン等の前衛がかったギャラリーから出た新人達です。平均年令30才ぐらいとかで、いまのニューヨークの、もっとも若い動きの一つのようです(もっとも、フランスから来た動きのようですが)。ポスターの切ぬきで台所を作り、絵のうしろでラジオがなっていたり、新聞のマンガをそのまゝ大きくかくだい(印刷の網目まで書いてあり、二色~三色の色がついている)したもの、等々、その趣旨はわかるし(少々わかりすぎるほど單純な感じ)面白くもありますが、それがイズムと言ふ事になると、いかにも無理に生み出されたような感じがします。
カタログには、これらの動きと同じ方向の仕事の例として、アントニオーニや、アラン レネ等の映画を出していますが そうなると ちょっと首をかしげたくなります。どうも映画の方が上のような事になりそうです。
日常生活のうつろさ、オートメーション化された生活を、既製品その物をつかってさらけ出すのは良いけど、それだけでは問題を提出しただけで 写眞だって映画だって良いでは無いかと言ふ事になり、ちっとも新しくないのではないか。なんの事はない昔の写実絵画と同じおとし穴が持っているような気がします。
又、ゆっくり御手紙いたします。
(1)猪熊さん個展
ニューヨークで長らく作家活動を續けている猪熊弦一郎の個展が10月30日より11月24日までニューヨークのウイラード ギャラリーで開かれ好評を博している。作品は大作の油絵を始め、ガッシュ等を含めて約20点。多くのマチエールの変化を持った丸や四角のフォルムが画面に点在し、宇宙的と言って良いような世界を作り出している。
(2)ニューリアリスト展
ニューヨークにおける今年後半のシーズン中 もっとも興味ある展覧会の一つは、一流ギャラリーであるシドニー ジャニスが 11月1日より12月1日までの1ヶ月、2つの会場を使用して開催しているNEW REALISTSと言ふ展覧会である。Factual painting & Sculptureと呼ばれるそれらは、電機冷蔵庫の蓋を開けるとサイレンがなったり、無数のカンヅメを画面一っぱいに書いたもの。又、既製品のガスコンロ、ナベ等の上に、せとものに焼かれたパン、野菜、焼かれた肉、などが乗っている台所の一コマ。実物のバスの運轉席と石膏で作られた運轉手、等々。一見ネオダダ風でいてそれと違ふ事は それらがすべて実生活と結びついた事であり物である事。そして、それらが既製品であると言ふ事である。彼らが凝視する現実と、その極度に規格化され オートメーション化された生活の持つ空白、による産物と言って良いかと思ふ。会場はフランス、アメリカ、イギリス、イタリー、スェーデンのそれぞれの作家の作品よりなっており、CHRISTO. ARMAN. JAN TINGUELY(佛)、John Latham(英)、OYVIND FAHLSTROM(スェーデン)、ENRICO BAJ. MIMMO ROTELLA(伊)、GEORGE SEGAL. GLAES OLDENBURG.JIM DING. RETER AGOSTINI(U.S.A.)、等28作家の作品54点が展示されている。