Jun 27. 1965.

1965.6.27

山崎省三様
 先日はお手紙及び證明書等、有難うございました。ご返事おそくなってしまい申訳ありません。芸術新潮のルポ大変面白く讀ましていたゞきました。作家に対してのこまかいお心遣い大変嬉しく思いました。皆も喜こんでおります。有難うございました。
 アルバイトの件は ちょうどあの後問題が起きたわけですが、山崎さんのルポに關しては全々ご心配いりません。日本でもだいぶ問題になったようですが、日本の新聞の報道のしかたはちょっと視点がづれているのではないかと思います。1時間1ドル40~1ドル70セントと言ふのは、日本でこそ大金かも知れませんが、こちらでは最低賃金です。(手取りは1ドル25~1ドル50ぐらいになります) 僕の家の家賃が109ドルですから、約4萬円です。コロンビヤや、N.Y.U.の1学期の月謝だけで500ドル以上です。
 例の日本クラブで働らいている人はほとんどが税込で1ドル50セントぐらい、給料が安くて有名な所で、「目にあまるアルバイト」どころではなく、まったくのやりきれない低賃金で働いているのです。その後、6月の中頃まで日本のレストラン ギフトショップなどを軒並に調べられ、アルバイト学生やわれわれ画かきはまったくあわてふためきました。僕達は運良くつかまりませんでしたが 僕の友人も数人つかまり、一人は日本に歸りました。こゝのところ、しばらく捜査がないのでほっとしていますが こんな事はアメリカへ来ていらいはじめてです。日本クラブは大きいので、はでな報道されましたが そのほかに小さなところでつかまって歸った人もいるのです。
 スチューデントが働けるのは夏休みだけ、それ以外は、イミグレーションにウォーキング パミットをアプライしても、特別の場合以外は許可をくれないのが実情です。それどころか、うっかりアプライすれば、アルバイトをしなければやって行けないのなら歸國せよ、と言ふ手紙が来るのが大部分です。
 それ故に東洋人の学生は、イミグレーションとの交渉をおそれるのです。僕達(多くの学生)はオールギャランティー(或るアメリカ人が旅費、学費、生活費その他すべてをギャランティーする)の形ちで来ています。しかし、そのギャランティーレターを書いてくれるアメリカ人をみつける事自体が大変な事で、じっさいにアメリカでの生活費のいっさいを出してくれる人がどのていど居るかと言ふ事は、ちょっと考へて見ればわかる事です。私費留学生の場合でも、アメリカでの生活費を月々送金出来る家庭は、よほどのお金持ちにかぎります。今の厳しい移民法の中で海外へ勉強に行こうと思へば、何んらかの形ちで法の目を潜るより、方法がないのが実情です。
 弱いものほどイジメられるのは世の常かも知れませんが、文部省留学生課長の「この強硬措置を歓迎する」と言ふ新聞記事にはあきれました。東洋人に対しての問題にならない厳しい差別が根本問題だと思いますが・・・
 週刊新潮に川端君が何か書いたそうで こちらの留学生が大変怒っています。苦学している学生は、本当に怒ります。僕は讀んでいないのでくわしい事は知りませんが、不良学生はもちろんいます。しかし、それが記事として面白いからと言ふ事で面白おかしく書きたてられたら、大部分の眞面目な学生はたまったものではありません。ある記事が逆にこちらの新聞に出たりして イミグレーションを刺激したと言ふ説もあります。いづれにしても我々は法をおかしているのですから、いくら言って見ても言いわけにしかなりませんが。・・・

 先日、近代美術館の本間さんと言ふ人が見え 日本人作家を精力的に見て廻っています。
 僕の家にも見え色々と話しました。海外在住作家の展覧会をやるそうで、どうも僕は入りそうもないようですが、こう言ふ企画の展覧会が開かれる事は大変良い事ですね。

 原稿大変おそくなりました。
 今月はシーズンの終りであまり面白い展覧会がありません。一応ローシェンバークの個展と、近代美術館のジャコメッティー展をお送りいたします。ジャコメッティーは マティス ギャラリーで見ていた時は大変すきでしたが、近代美術館の会場では非常に弱い感じがしました。おそらく彫刻と同時にそれをとりかこむ空気と言ふか 空間が重要と思われるジャコメッティーには、ニューヨークの空気がじかに通り抜ける近代美術館の一階では 何か雑音におし流されてしまいそうな感じです。

近代美術館のジャコメッティー展
 ニューヨークの近代美術館では、6月の9日より10月の10日まで、ジャコメッティーの作品140点を展示している。初期の作品から、庭に置かれたブロンズの大作等72点の彫刻、おのおの34点づつの油絵とドローイングからなっている。目まぐるしく移り変るニューヨークを象徴したかのような「ザ レスポンスィブ アイ展」の次に開かれたジャコメッティー展は、一貫した一つの姿勢をもった作家の歴史であり、見るものゝ心に訴える。

ローシェンバーク個展
 ベニスのビエンナーレ國際展でのグランプリ受賞で大いに話題となったローシェンバークは、6月の12日まで新作による個展をニューヨークのレオ キャステリイー ギャラリーで開いた。今までのシルクスクリーンによる作品とはガラリと変り、自動車のドア、鉄くづ、木切れなどを組合わせたもの。スピーカーが仕込んであったり、水をはき出す装置のついたもの等。新しいこゝろみと言ふよりは、手なれた手法で作り上げたアッサンブラシュのオブジェと言った感じである。

 本日お手紙いたゞきました。證明書あれで結構です。色々とお手数お掛けして申訳ありません。レコードはさっそく買ってお送りいたします。では又、ゆっくりお手紙いたします。
近藤竜男

手紙, Jun 27. 1965., 1965.6.27手紙, Jun 27. 1965., 1965.6.27手紙, Jun 27. 1965., 1965.6.27手紙, Jun 27. 1965., 1965.6.27手紙, Jun 27. 1965., 1965.6.27
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