July 17. 1986.
1986.7.17
山崎省三様
本当に長い事、御無沙汰してしまいました失礼お許し下さいませ。東京画廊に関します事、僕の個展の事、芸新連載のエッセイの事、etc、それぞれに対し色々とサジェスチョンをいたゞき、又励ましのお便りとともに、「平安仏画―日本美の創成」展のカタログをお送りいたゞき、心より感謝いたしております。色々と本当に有難とうございました。すぐに、お手紙書かねばならぬのに果せぬまゝ日々が過ぎてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。
今年に入ってから予期しなかった事が相次ぎ、宮本さん、馬宮さん、への原稿もまったくギリギリとなってしまう状態で、芸新編集部の皆様にも、御迷惑をお掛けしてしまい、申訳なく思っております。お許し下さいませ。
6月末、東京画廊の石井さん、15、6年振りのニューヨーク滞在で、色々と話し合いました。次回個展の売れた作品の画廊の取り分を未払い分にあてるという ようなことで——、ともかく作品発表も大切ですので、来年3月2日-3月14日東京、3月23日-4月4日名古屋、4月9日-4月21日廣島ということになると思います。最初に山崎さんにご報告しなければならないのに、もう2週間以上もたってしまいました。今年後半は個展作品の制作に集中します。エッセイも。—— こゝ数ヶ月、書く事は一杯あるのに、ちょっと疲れちゃった感じで、なかなか書けません。取材や、論評的なものとちがい、絵かきのエッセイでも、自分を傷付けないと書けないようなところもあって、ものを書く事を本業として生きる人は大変なのだなと、つくづく思ったりします。皆様に御迷惑をお掛けしっぱなしで、なんとか最終回まで頑張ります。今回もう一度美術を書いて、クラシック(音楽)について二度書こうと思っていましたが、一回にして、後は食べ物の事とか、ポルノの事とか、日常的な事を二回書いて終りとなるように思います。どうなるか、その時になってみないとわからないのですが何卒よろしくお願い申し上げます。
今、ニューヨークの近代美術館で”Vienna 1900: Art, Architecture and Design”という展覧会が開かれています。クリムトとシーレが素晴らしく、山崎さんにお見せしたいような展観です。会期末はニューヨークもシーズン中ですし、いらっしゃいませんか? カタログをお送りいたします。(ワールドの原稿としてはこの展観写眞がとれませんので、「絵はがき」を送ります。もし、編集部で、もう一部カタログ必要な場合は、お送りいたしますから御連絡下さい。) ←会場写眞なんとかぬすみどり出来ました。 今まで、エコールド・パリとはことなって「ドイツ美術」のコンテクストを系統立てゝ見たり考へたりするチャンスがあまりありませんでしたが、ドイツは、(文化政策として)着実に国際美術マーケットであるニューヨークにドイツ美術を示して来たと思います。81年、メトロポリタン美術館における「19世紀におけるジャーマン・マスターズ」、グッゲンハイム美術館における「ジャーマン・エックスプレショニズム」「ボイスの大回顧展」 新・表現派の台頭、そして、ポスト・モダニズムが世間に浸透した今、「ウィーン1900展」で、オーストリアの建築、家具デザイン、美術をじっくり示すとは。パリを中心とするフランス美術は、子供の頃からならされて来たけれど、ドイツ美術は断片的にしか接して来ていなかったから、5年がゝりで、じっくりドイツ美術の近代——現代を示されると、今回展に酔うというよりは、日本人の僕としては(別に戦っているわけではなくても)なにか、敗北感のようなものを感じてしまいます。長い歴史を持つ日本と、現在の日本、との接点というのは、なんとも焦点をむすびにくゝ、武満さんのノーベンバー・ステップなどは、奇跡じゃないかという気がします。
音楽のプロモーターとしてはベテランのカズコ・ヒリアーさんは、京都の龍村の人だし、前から、美術に関心があったようですが、突如、「海外の日本人作家」展をぶち上げ、ニューヨークの日本人作家たちをかきまわしました。きわめて短かい準備期間しかなく、無理だと思われるような事を、一方、スカラ座をカリフォルニアへ呼ぶ仕事を並行しながら強引におしとおすバイタリティー、彼女の持つ組織力、行動力は、なみたいていのものではなく、興和不動産の方も、思いのほか、今後、とうぶん無料で会場を提供するようです。「ギャラリー・インターナショナル52」と名付けた時から、彼女がいる時は、電話とタイプが休むまもない感じで、カネギー ホールの近くの彼女のオフィスの一部が、こちらへ移って来たようなもの。今迄、日本の美術関係のディーラー達は、志水さんなどを含めて、こちらのディーラーからすればお客さんであって、しろうとのようなものでしたから、—— ヒリアーさんが、美術は採算に合わないと投げ出してしまえば、どうということはありませんが、欧米でのビジネスを知りつくしたプロの彼女が、もし、本気で美術に取り組むようなことになると(やゝその気配がある) 今迄にないケースで、これは案外、思いがけないゆさぶりを、日本国内の美術界にもおよぼすかも知れない、というような予感もします。パートⅡは僕も出品し、月末の展示となりますので 又、一騒動です。
七月も半ばを過ぎ、日本も日毎に暑さを増していることでしょう。くれぐれもお体に気を付けて下さいますよう、暑中御見舞い申し上げます。コラージュ、ドローイングの事等、今日は書けませんでしたが、又、お便りいたします。乱筆、お許し下さいませ。
近藤竜男