Mar. 3. 1980.

1980.3.3

山崎省三様
 グレイン・グールドのトッカータ、Vol.2がやっと出ましたので お送りいたします。御試聴下さいませ。斎藤さんへは別にお送りいたしました。
 それにしても グールドのレコーディングの数がすごく少ないですね。シューベルトのピアノ・ソナタや、モーツァルトのコンチェルトをどう彈くのかなという期待があり、一昨年から昨年に掛けては、シューベルト・ブームだったので(没150年)、あるいわ、などと思いましたが、無理な望みでした。モーツァルトは、昔 24番K491.を一曲だけ入れていますが、アメリカでは、早く廃盤になってしまい、僕は持っていなかったので、鎌倉の斎藤さんのお宅へうかゞった時、聴かせていたゞいたことがあります。でも、コンチェルトの録音というのは グールドの場合 これから先は、あまり期待出来ないのでしょうね? 演奏会を否定して、レコード録音一本にするという宣言は、当時、すごくカッコ良かったのですが、今や、ニューヨークでは 特殊なファンを除けば、関心外の存在となってしまったようです。
 60年代アートから コンセプチュアル・アートへ至る経過。——作品発表という姿勢に対して否定的であったコンセプチュアル・アートの初期段階と、グールドの録音のみに制約する姿勢は、時期的にも符合するところがあって、大変面白いと思います。これから先、どれだけの録音を残すのか、残せるのか、と、10年前の関心とは、又違った意味で興味が湧いて来ます。
 先週は、東京クワルテット10周年で、2月25日、28日、3月2日と3回のコンサートをカネギー・ホールで開き注目されています。斎藤さんは、なかなか日本人演奏家を認めて下さらないようですが、長く外国に住んでいると 日本に対しては、一種独特の援護意識のようなものが出来てきて、ファン的心境となります。コロンビアで出たラベルと、ドビッシー、など、現在の世界のクアルテットの水準から、高く評価して良い演奏だと思うのですが。——
 片や、ピンク・レディーは、3月1日土曜、N.B.C.に1時間番組で登場し、同じ時間帯は日本語テレビ局で、N.H.K.の「くさもゆる」をやっているので、日本人家庭内では、親子の思わぬチャンネルのうばいあいがあったようです。
近藤竜男
 ひろし君の展覧会、—— エリザベス・マレーの個展、前から気になっていたのですけど、成功したでしょうか? アメリカの若い世代の作家としては、僕は興味があり、シャピエロと共に何度かふれた事がありますが、今度やるシャピエロにしても国内的には評価の高い作家ですが、日本ではほとんど紹介されていないのでしょうね? 今度、ヒロシ君が持って行ったシャピエロの小さな壁に掛ける立体作品、いきなりあれだけを見せられても、なかなか、理解出来ないのではないでしょうか? 僕にしても 彼は大問題の作家で振り廻されます。言葉で表現しにくい作品です。シャピエロは昔、手帖に「アンティ・イリュージョン展」について書いた時、わずかふれたことがありますが、その後多様な変転をしています。
 マレーや、シャピエロの所属するポーラ・クーパー(今度一緒に日本へ行ったと思います)は、アメリカでも、もっとも重要な画廊で、これは、キャステリイのように国際的に派手な有名画廊という事ではなく、国際的な視野を持ちながら、あくまで アメリカ国内に根差した画廊です。ナショナリスティックな傾向の強いアメリカでは これから より主要な意味合を持つ画廊となることでしょう。(もっとも、彼女の留守中は ヨーロッパの作家による展覧会が開かれています。) たゞ僕等にとっては、ポーラ・クーパーは日本人作家をあつかう可能性はまずなかろうという判断をしていましたので、日本へ行くということだけでも驚きでした。

手紙, Mar. 3. 1980., 1980.3.3手紙, Mar. 3. 1980., 1980.3.3手紙, Mar. 3. 1980., 1980.3.3
Tatsuo Kondo CV
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