11月8日(1969年)

1969.11.8

山崎省三様
 ごぶさたいたしました。原稿あいかわらずおくれてしまい申訳ありません。
 今シーズンの画廊はまったく活気がなく、安定した作家の、ドローイング、旧作などによる展覧会が目立ちます。不景気のためか、あるいは、新人をそだてると言ふ事より、過去の遺産でくえるようになったと言ふ事なのかも知れません。新人は、ウエハウス(アップタウンのキャステリや、ダウンタウンのフィッシュバッハ)や、ダウンタウンのギャラリー、での個展、あるいは、スタジオでの発表などがふえたように思えます。右と左と言ふか、旧勢力にぞくするマジソンアベニュー時代の作家と、それ以後と言ふのが この七十年頃を境として その立場をはっきりしはじめた とも言えましょう。ステラあたりまでの線が、大家ぜんとして来て、ロバート モリスとか、ダン フレービンなどが その中間的な存在なのでしょう。画廊は、しょせん商賣ですし、こゝのところ、そう言った事が露骨に表面に出て来ているのではないでしょうか。
 僕はと言えば 平面の仕事を續けているのですが、自分がアクションのようなものを通り抜けて来ているので、後もどりの姿勢には、なりませんし、現在の動向とはだいぶ違った仕事となって行くと思いますが、孤立して仕事をするのが 今は一番良いのではないかと思っています。
 斉藤さんへのレコードを、お送りした時、メトロポリタン百年展のポスターの内の一つが良かったので 別便で山崎さん宛にお送りしましたが つきましたでしょうか?
 明日は、アラン・サレットと言ふバイカート ギャラリーの作家が、ギャラリーではなく、ダウンタウンの自分のスタジオで 作品を発表しますので見に行きます。日曜だけオープンするそうです。
 では又、お手紙いたします。
近藤竜男

手紙, 11月8日(1969年), 1969.11.8手紙, 11月8日(1969年), 1969.11.8
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