九月二十四日

1970.9.24

山崎省三様
 今月も半ばまではあまり面白い展覧会がありません。グッゲンハイム ミユジアムのピカビア展と、カール アンドレの個展がもうすぐはじまりますが 来月分としてお送りする事にします。
 グッゲンハイムのジャパン アート フェスティバルへは、六×八と、四×十フィートの大作二点を出品する事になりました。選ばれた作家がほとんど新人であると言ふ事が気持の上では救いになります。グッゲンハイムの会期中上映するコンテンポラリー ジャパニーズ アートのフィルムのタイトルバックを作らないかと言われているのですが、はたして良いものが出来るかどうか—— とりあえずこの週末にフィルムを見せてもらってきめる事にします。
 ニューヨークからは河原温さんと、高間夏樹君、版画の木村利三郎さんが出品する事になっていましたが、温さんは、ミユジアムへの出品と言ふ事は差し控えたいと言ふ事で降りました。コンセプチュアルアート展、インフォメーション展、あるいはヨーロッパでのグループショーなどでちょっと発表し過ぎたと言ふ事なのでしょう。もともとコンセプチュアルアートの連中のなかでは作品の展示と言ふ姿勢に対して かなり否定の声が強いのですから。高間君は、プラスティックの箱の中にパンや肉を入れ、腐敗するにまかしてあると言った作品ですが、プラスティックの箱が 十分安全に作れるかどうか、と言ふこと、臭気が出ると言った事などから、おそらくミユジアムと言ふパブリックの場所においての展示は、ヘルス デパートメントの許可が取れないのではないか、又、巡回展としてカリフォルニヤなどえ作品移動の際 安全性がない(保険の問題などもあるのでしょう)と言ったような事情により、展示出来なくなりました。結局ニューヨークからは、僕が絵画を、木村さんが版画を出品するだけとなってしまいましたが、このジャパン アート フェスティバルですら、現代美術とミユジアムの関係のむずかしさが露呈して来るようです。
 今度のグッゲンハイムのジャパン アート フェスティバルに関して何か取材の必要がありますでしょうか? もし必要であれば早めに今からポツポツと資料集めて見ますが・・・ 山崎さんは近代美術館に展示された今度のフェスティバルの作品どのように感じられましたか?
 航空便用の原稿用紙がもうすぐなくなってしまいますので誠に恐れ入りますが、送っていたゞけませんでしょうか。お願いいたします。
 週刊新潮が讀みたいと女房が言いますので 斎藤さんが「何んでも希望のものがあれば」とおっしゃって下さるのにあまえて、お願いいたしました。船便でと言ったのですが、航空便で送って下さり、小説新潮も船便で送って下さるとのこと、大変恐縮しております。恐れ入りますがくれぐれもよろしくお傳へ下さいませ。
 ニューヨークは季節のなだらかな変化がありませんので、こゝのところ冬を間近に感じさせる日が續いたかと思ふと又、突然眞夏の暑さとなります。もうまもなく、一気に寒い冬となるのです。
九月二十四日
近藤竜男

手紙, 九月二十四日, 1970.9.24手紙, 九月二十四日, 1970.9.24手紙, 九月二十四日, 1970.9.24手紙, 九月二十四日, 1970.9.24
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