7月1日(1966年)

1966.7.1

山崎省三様
 ご無沙汰いたしました。ニューヨークもシーズンオフ、すっかり夏になって暑い毎日です。
 ジューシ ミユジアムのPrimary Structures展の原稿を早くお送りしなければと思いながら、つい遅くなってしまいました。この展覧会は、最近のニューヨークで一番目立つ動きの一つで、シェープド キャンパスや、3ディメンションの作家と本質的にはかなり近く、並行して出て来たものと言えるでしょう。最初見た時はハッとするぐらい新鮮なのですが、感動をじぞくさせると言ふ点では、かなりの弱点があるようです。むしろ、最初のオドロキがきえてしまふと、だんだんつまらなく見えて来ると言った方が良いでしょう。その中で、デュワン ギャラリーや、キャステリーなどで見られた一部の新人たちの作品(この展覧会へ出品している作家)は、もっとナンセンスで、たゞの白い箱であったり、木組であったりで、感動と言ふ事じたいを最初から否定しているようです。そこには作家の存在あるいは感情の起伏と言ふものが、まったく感じられないように作る事を努力している作家の影が見えると(むりに見ようとすれば)言えるかも知れません。全体的には大変ハデでスッキリしている展覧会で、すごくみ力的です。先日東野さんから、この展覧会のカラースライドがほしいとの事で、このネガと一緒にとって来て送りました。スライドも同封いたしますから、見て下さい。
 イギリスと言ふのは、これからのびるのではないですか? この展覧会でも良い作品はイギリスの作家が多く、ビートルズから007にいたるまで、英國の新勢力は影のようにアメリカにせまっているように感じるのですが? ポップでもがんらい英國から出たものだし、アメリカはそれらを一早くみつけて来て、一つの強力な勢力に自國でまとめ上げるのであって、それもなにか、ちょっと飽和点にたっしてしまったようなものを感じますが、僕だけかも知れません。バカにきれいに出来上った作品のうらに 何か疲れと言ふか、頽廃と言って良いのか、ポッカリあいた空白みたいなものを感じるのですが。
 タダスキー君は、フィッシュバッハと言ふギャラリーで、この秋個展をするようにきまったそうです。山本さんが見えた時、東京画廊での秋の個展の話もきまったそうで 久しぶりでニコニコしています。

ジューシ ミユジアムのYounger American & British Sculptors展に見られる新しい動き
 ポップアート、シェープドキャンバス、オプアート、トップアートからニューアブストラクション等と、名付けられた多くの動きが60年代に入ってから相次いだわけであるが、かならづしもそれらの境界線わ、はっきりしているわけではない。めだった新しい勢力の出現が見られなかったと言ふ意味では、停滞気味とも言われる昨年から今年にかけてのシーズンであるが、別な視点から見れば この期間は、それらの多くの動きのなかで おたがいに影響しあった結果が見受けられるようにも思われる。ジューシ ミユジアムで4月の27日から6月の12日まで開かれた”Primary Structures” - Younger American and British Sculptors展は、そのような状況のニューヨークではかなりセンセーショナルな展覧会であった。23歳のTina Matkovicをはじめ、30歳前後を中心とした42作家51点によるこれらの作品は、展覧会のタイトルに添って彫刻の作品のみで、いわゆるスリーディメンションの作家はふくまれていない。しかし この展覧会のもっとも特徴的な事の一つは、それらがほられる彫刻ではなく作られるものであり、その意味で それぞれの作品はとうぜん色彩をもっていると言ふ事である。これらの作品による会場は、さまざまな形ちと、素材と、あざやかな色彩によって、目をみはるような新鮮さとハデやかさをもっている。これらの動きは、スリーディメンションの画家たちとともに 最近もっとも目立つ動きであると同時に ポップ以後英國の若い世代の可能性が具体的にあらわれた注目すべき展覧会と言える。

グッゲンハイム美術館のラテンアメリカ展
 ニューヨークのグッゲンハイム美術館では、”The Emergent Decade” Paintings and
Drawings by Comtenporary artists of Latin Americanと言ふタイトルの展覧会が春のシーズンとして開かれた。ラテンアメリカのブラジル、ウルガイ、アルゼンチン、チリー、ペルー、コロンビア、ベネゼラ、メキシコ等の作家よりなるこの展覧会は、Matta、Tesús Rafael Soto(クーツ ギャラリーにいたソトの事)をはじめ、Farnando Boteroや、日系人としてマドリッドへいるTomoshige Kusuno等が出品している。一部の作品をのぞき ニューヨークの美術界とはまったく異質の作品群をニューヨークで見る時、つまらない展覧会と言ふ前に何を良とするかと言ふ 作品の価値評価の基準と言ふものについての疑問をふと感じさせる。

グッゲンハイム美術館のGauguin and the Decorative Style展
 ニューヨークのグッゲンハイム美術館では、夏のシーズンの展覧会として6月より9月まで”Gauguin and the Decorative Style”展を開いている。ゴーギャンの油 水彩 木版など48点 それにゴーギャンの表現的様式化のその後の発展として 1888年代のÉMILE BERNARDからPICASSO、KANDINSKY、EMIL NOLDE、LÉGER、等から、1940年代のHenri Matisse にいたる83点が展示されている。1963年のCézanne and Structure展 1964年のVan Gogh and Expressionism展についで、今度のGauguin and the Decorative Style展は、「後期印象派よりの発展」への新たな考察の一つとしても ゴーギャンの多くの作品が見られる事とともに、有意義な展覧会である。
(ゴーギャンの展覧会はカメラを持たづに行った時に見たので、写眞がありません。まだ9月までやっていますので、ひつようでしたらお知らせ下さいませ。お送りいたします)

 暑さのおりくれぐれもお体を大切にして下さい。
近藤竜男

手紙, 7月1日(1966年), 1966.7.1手紙, 7月1日(1966年), 1966.7.1手紙, 7月1日(1966年), 1966.7.1手紙, 7月1日(1966年), 1966.7.1
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