Aug 9. 1985.
1985.8.9
山崎省三様、山川みどり様
毎月のエッセイと原稿、毎回遅れてしまい、そのたびに皆様に御迷惑をお掛けすること、本当に申訳ありません。お許し下さいませ。エッセイの方は、テンポがちょっとのろすぎるかな、とも思うのですが、——この後 吉村益信君を始めとする 多数の留学生が強制送還になり、日本の新聞でも 我々は「学校にも行けずにマージャンばかりやってる留学生」などとぼろくそに叩かれました。イサムさんの所で働いた事や、今のアンテックの会社へ移ったことも、本来 永住権を得るための手段というところがあったのですが、来月ぐらいにイサムさんのアトリエの事書こうと思います。マーサー・ジャクソンと会ったのもイサムさんの所ですが、マーサーでのグループ展のことや、タダスキーのこと、三木君の事などを通じて、アメリカの美術界の当時の姿勢と、われわれとのちぐはぐな関係などにふれたいと思います。一応底辺が出来てから、美術、音楽、ジャズなどにふれてゆきたいのですが、今月あたりが、ちょっともたついた感じになってしまうのではないかと気になっています。9月号の原稿も、美術学校にかぎらず、小学生でも、日本は、組まれたカリキュラムの上にのって進んでゆく、—— アメリカは、子供の時から自分の進む道を自分で選ばなければならないシスティム、—— 日本の方が試験地嶽の連続で大変なようだけど、生きかたを、自分で選んで行かなければならないアメリカの方が本当は大変なのではないか、という事を書いたつもりだったのに、肝心のこの言葉が抜けてしまったので、後で原稿読み返してみて、なんだか焦点のないような文になってしまったと思いました。エッセイ、今のペースで良いのか? 良くないのでしたら、こゝらで、もう一度、サゼッションいたゞきたいと思います。自分では自分が見えないというか、読者にとって何が面白くて何がつまらないのか——、の判断がつかみにくいのです。
今月より稿料として御送金いたゞいております取材費を上げて下さり心より感謝いたしております。本当に有難とうございました。助かります。
今年の日本の夏はものすごい暑さ! だということは、こちらのテレビでもやっています。廣爆40周年で、ニューヨークの各ネットワークは何時間にもわたって大型番組組んでいて、本家本元の日本の方が、内部分裂などして、40年間にすっかりたるんじゃている印象を受けました。スター ウォーの事もあり、50周年では、証言を取れる生存者が少なくなってしまうということで、40周年に的が絞られたようですが、日本のニュースが言っている「アメリカにも反省の色が見えて来た」などということよりも、アメリカの一人一人が、将来、自分がいかにして生き残れるか、サバイバルの問題を現実のものとして肌に感じはじめて来たということでしょう。テレビを見ていると日本は実に暑そうです。猛暑の最中、くれぐれもお体を大切にして下さいますよう、編集部の皆様へも暑中お見舞い申し上げます。
実は、先日、宮本さん、馬宮さんにもちょっとお話ししたのですが、ニューヨークのタックス・オフィス(税務所)より、83年度分(一昨年)の税金監査の知らせがあったのですが延期してもらい、来月早々に出頭します。昨年も82年度分でさんざんいじめられたところで、こういうのは、一度引掛ると数年続くのだそうです。
それで、毎月お送り戴いております原稿料も収入として示さなければならないのですが、今、僕の手元にありますものは、僕のアカウントに振り込まれた東京銀行からの通知書だけです。これを税務所に示した場合、彼等にとって どこの会社があるいはだれが何の目的のために送金したかということがわからず(宮本さんの名前だけはわかります)、たしかに原稿料であるということの證明にはならないわけです。年末の日付で、今年は毎月 原稿料、取材費 その他を含めて差引き合計、これだけの金額を送金したということを、会社名のヘッドのあるオフィシャル ペーパーに明記し、それと一緒に振込み通知を示せば 一応は納得するわけで、そのために、会社名の入った(英文が入っているもの、芸新からアメリカの美術館に手紙を出す時のと同様の用紙10枚)を何枚か送って頂けませんでしょうか。円とドルのレート、円としての金額も記さなければならず、これから、会計士と計算し書類を作りますので、白紙のまゝの方が良いのです。
それと「御支払通知書」というやつ、下記のような簡單な書類で、所得税申告の時に貼附して呈出するものです。僕の稿料の場合、お礼という形で、源泉徴収を払っていないので、この書類、送られて来ないのだと思いますが、他社からは送られて来ます。本来、この支払通知書も 振込み通知と一緒に各月ごと一枚一枚を示さなければなりませんので、もし、この支払通知書、簡單に入手出来ますものであれば、12枚以上、15~20枚ぐらい(書きそこないするかも知れませんので)一緒にお送りいたゞけますでしょうか(白紙でかまいません)。83年度の各月の1ドルの円レートと 送り頂きました全額は、わかりますので、こちらで記入出来ます。(源泉徴収は払っていなくてもかまわないのです。こちらで(米国側で)収入として税金を払っていますので)。
[ 支払通知書のスケッチ ]
それから、芸術新潮関係の申告金額と、振込金額の帳尻が正確に合わなければなりませんので、(こちらの監査はものすごく末端の数字まで こまかく追究して来ます。) わずかな金額の手加減は加へなければならないと思います。それで、もし領収書のようなもの(白紙で良いのです)が4、5枚頂ければ大変たすかります。(本を買った事などにして調整したいのですが。領収書は、もし御迷惑がかゝるようでしたら結構です。)
以上ですが、架空の書類を作るのではありませんし、これは、アメリカ国内での一角の個人的出来事で、国と国とは無関係の事であり、日本に対して、新潮社に対して 御迷惑をお掛けするようなことは絶対にありませんし、いたしません。
誠に勝手なお願い事で申訳ございませんが、何卒よろしく上記の件お願い申し上げます。出来ますことなら、出来るだけ早く ニューヨーク宛お送り戴ければ幸です。
明日 女房が、高齢の母の事で一時帰国いたしますので、この手紙は日本で投函いたします。今回は御挨拶にお伺い出来ないのではないかと思いますが、御電話させて頂きますので 不明な点はその時 よろしくお願い申し上げます。
僕は、個展が86年4月7日-19日(東京画廊)と内定し、前回と同様、名古屋、廣島、と続きます。今月はちょっと時間が取れそうで原稿の書きだめが出来るかなど思っていたのに今度は税金問題が持ち上り もうがっかりです。
では、エッセイ、ワールドとも今後ともよろしくお願い申し上げます。4月には お目に掛れます日を楽しみに、山崎さんのニューヨーク行は、どうなりましたでしょうか?
末筆ながら編集部の皆様にもくれぐれもよろしくお伝へ下さいませ。乱筆お許し下さい。敬具
近藤竜男