5月26日(1967年)

1967.5.26

山崎様
 お手紙今日 受取りました。今日 26日が金曜なので 29日からでないとしらべられませんが、6日までには、間に合うようにお送りするつもりです。あの原稿の書きかたが悪いため、どうも微妙なところで、そちらで受ける感じと、こちらで書こうとしている事がずれているようにも思います。ニューヨーク ビエンナーレは こちらでも たしかに そう呼ばれていましたし、ニューヨーク タイムスでも、ニューヨーク ビエンナーレと書いていました。それに関する事がにぎやかに言われた一時期を過ぎ、中止と言ふ事になりました。別に公式発表があったわけではありませんが(このところが問題なのですが) これは だれしも認めるところで、絵かきもギャラリーも、「中止」と言ふ事で その話はとうざかって行ったのです。フォック氏は、アート インターナショナル 196~の呼び方にたいし「今は、そのように呼ばれている」と言ったのであって 少なくとも名称の上では、前と違ったものになったのは、事実です。最初から、1967or8を考へていたとは考へられないように思います。中止の理由は、お金がニューヨークでは集まりにくい、或は 内部のもめ事があったと言ったような事が言われていましたが、それも漠然とした噂話に過ぎません。事の移り変りの激しいニューヨークの事、今年に入ってからは もうその話は、まったく聞かれなくなりました。ところが、川島さんが 中原さんへ出した年賀状に ビエンナーレ中止の事をちょっと書いたそうです。その事で 大さわぎになったそうで 今年の初め、ニューヨークへ着いた東京画廊の林さんと石井さんが、けっそう変えて川島さんに聞き正しました。こちらでは、漠然と中止と言っていた事で それほど重大にも考へづに(作家選考もおこなわれていないので)書いた事なので、彼もびっくり。ビエンナーレ関係者に画廊の人が聞いたところ、中止にはなっていないとの事で「いいかげんな事を言ってもらっては困る」と言って だいぶふんがいしたそうです。しかし、その二三日後、「たしかなすじから聞いたところでは、やはり中止になったそうです」と言っていました。結局 中止だと言ふ事で東京画廊の人は歸られたはづです。この事は今、僕が調べて見た結果と似ていて、一方では中止だと言い、もう一方では、中止ではないと言ふのです。
 画廊なり、絵かきなりは、このビエンナーレ展は直接自分に関係ある事だけに、こう言ふ事には、敏感なはづで、だれに聞いても とうぜん中止と思っていると言ふ事は やはり、事実上は中止になったとしか考へられません。そして、その後、ビエンナーレに関する噂さが、まったくないと言ふ事は、その組織が動いていないと言ふ事でしょう。しかし、アブラムス氏自身が中止でないと言えば、中止にはならないのではないでしょうか。彼が公式に中止を発表しない以上 実際に動いていなくても 新聞などで 中止を発表する事は出来ないでしょう。中止とはせづ、目標がつきしだい、再出発すると言ふ事ではないでしょうか? それには 中止と言ふ印象をあたえるのは、良くないはづです。
 フォク氏のくれた コミッティー メンバーの書類も 良く見ると昨年の8月始めに印刷されたもので その中から、ジューシ ミユジアムのディレクター、サム ハンターを消して、渡してくれたものです。
 僕の言いたい事は アメリカのコレクターと言ふのは怪物みたいなものだと言ふ事です。政治家とおなじで、僕達が正面から、ぶつかって見ても、どうなっているのか、良く分からなくて、うす気味が悪いと言ふ事。コレクターの美術購入と税金の関係も コレクターを、美術界で強大な力とする一因でしょう。日本のコレクターからは、アメリカのコレクターの勢力は(ミユジアム、ギャラリーなどに対してもつ力) ちょっと想像出来ないかも知れません。このニューヨーク ビエンナーレでも アブラムスと言ふコレクターが、ミユジアムのディレクター達を、コミッティーとして動かしているわけですから。僕は あるいは 5月15日と言ふのは逃口上で ミーティングはあるにしろ別にたいした変りもないのではないかと思ったのですが・・・調べて見なければわかりません。フォク氏がもっともらしく言った事は、考へて見れば、前のビエンナーレの時の主旨と、たいした違いはないのです。
 結局こう言ふ、問題を、想像で書いて見ても誤解を招くばかりだし、色々な人から聞いた話を正直に列挙して、それを讀んだ人がそれぞれ自分でそこから、なんらかの結論を引出す方が良いのではないかと思ったわけです。考へれば考へるほど、こうだと言ふ結論は出せないような気がします。5月15日以後も、なんら公式の発表がないので、今もこのように思っているのですが 月曜日にうまく聞ければ、又、意外な、変化があるかも知れません。あの原稿、もう少し違った文に書きなおしてみようかとも思っています。
近藤竜男

手紙, 5月26日(1967年), 1967.5.26手紙, 5月26日(1967年), 1967.5.26手紙, 5月26日(1967年), 1967.5.26
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