10月18日(1965年)

1965.10.18

ステュアート デビスの回顧展
 9月の1日より10月の17日までの1ヶ月、STUART DAVISの回顧展が、ニューヨークのホイットニー ミユジアムで開かれ、1910年代の作品より、最後の64年に至る、127作品が展示された。数少ない、1800年代(94年)のアメリカ生れの抽象作家と言ふ事もあってか、アメリカでは、高く評価されている作家である。それは 一見マチスを思わせるような明解な色彩の世界であり、生涯、デコラチーフな体質をそのまゝ まっすぐ歌い上げた作家と言えよう。

ロバート マザウェルの回顧展
 ニューヨークの近代美術館では 10月1日より11月28日まで、マザウェルの回顧展として、1940年より1965年までの代表作70点を展示している。アブストラクト エックスプレションの全盛時の代表作を多く含むこの展覧会は、今度、新らしく Painting and Sculpture Exhibitions 部門のアシスタントキューレターとなったフランク オハラの企画によるもので 詩人としての彼の前歴からして、彼のマザウェルの選出は、当然としても 近代美術館が現在マザウェルの展覧会を開くべき意義については賛否両論、かなり辛辣に批判をするむきも多いようである。いづれにしても アブストラクション エックスプレションより、めまぐるしく変った5年間。今、アブストラクト エックスプレションの代表作家の作品を、流行からはづれた地点で冷静に見る機会を得る事は けして無意味ではないはづである。当時感動した作品がかならづしも同じ感動を呼ぶものではなく、むしろ失望を感じるとすれば それは又、現在のポップアートや、オプティカルアートにおいても、いづれ同じ批判がくりかえされる事であろうし、時が又 新たな答えを提出するのであろう。

 マザウェル 本当にがっかりしました。ポロックがつまらなく見えると言ふのとは、本質的にちがう、もっと大きな疑問です。よく、ニューヨークの美術界はデトロイトと同じだと言われますが 次からつぎと新らしいものを生み出す、とは言っても、歴史のあさい美術館では、今までは捨て去られるものと言ふのはあまりなかったと思います。
 今度のマザウェルのみじめさは なにか権威の座から転落した者、色あせて見える流行おくれの自動車を思わせます。あるいはみじめと感じるのは、マザウェルも好きだったアブストラクト エックスプレショニストだと思っている僕自身なのかも知れません。
 もう一度ゆっくり見て来ようと思っていますが、作品の質として良くないものがやはり多いように思います。
 讀賣新聞のニューヨーク特派員だった木村英二さんが日本に歸りましたが、この人 本当の音楽キチガイで、ニューヨークにいた4年間 61-65の主な演奏会は 國連がいそがしい時以外はもれなく聞いています。まづ日本人では、一番多く聞いた人ではないかと思います。讀賣新聞にも音楽の記事を書いていましたし 昨年からは美術関係の記事もぽつぽつ書いていました。集めたレコードが800枚とか? 機会がありましたら一度、お会になりませんか? 讀賣の外報部だと思います。
 では又、お手紙いたします。乱筆にて失礼いたしました。敬具
近藤竜男

手紙, 10月18日(1965年), 1965.10.18手紙, 10月18日(1965年), 1965.10.18手紙, 10月18日(1965年), 1965.10.18
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