八月十六日
1968.8.16
山崎様
今年は特に暑かった夏も どうにか峠を越えたようです。
先日、南の志水さんと東野さんがベネチアのビエンナーレの歸り、ニューヨークへ寄られました。志水さんと久しぶりでお話しする事が出来、嬉しく思いました。
ホイットニー ミユジアムの「ライト オブジェクト アンド イマージュ展」とコレクション展、及び グッゲンハイムの「ルッソ、ルドンと幻想の作家展」の原稿お送りいたします。
ホイットニーのライト展は スタンリー ランズマンのライトに鏡とガラスを使って無限空間のような、トリックを作り出す作品が面白いのですが、これも、すぐ一つのパターンとなってしまい、どの程度、発展性があるかは、やゝ疑問のように思います。
志水さんのお話で サイケデリックなものとか、ライトのものなどはむしろ、日本の方がさかんと言ふ事で、なるほど、現代日本美術展の写眞などを見ますと、日本に入ってから、異常発達したと言った感じすらうけます。アメリカのそれは、それほどサービス精神?(山口さんの作品に見られるような)ものがありませんので 案外作品そのものが、地味です。現代日本美術展の会場のきらびやかさには驚きました。
あるいは数年前の、オプ前後のサイケデリックからプライマリー ストラクチャーの時代の、色彩の豊富さを含めたはなやかさが、今、日本ではやっているのかもしれませんが。—— そうだとすれば 来年か再来年ぐらいには、ミニマルアートが日本ではやり始め、色彩のないベーシックな形体になって行くのかも知れません。
ホイットニーのTwenty Four 20th Century Americans To Todayはつまらない展覧会です。いわゆるミユジアムのコレクションの展示と言っても良いでしょう。
グッゲンハイムの幻想展、ルッソーの下手さと、ルドンの上手さに、あらためて感心しました。でも、ルソーは素晴しいです。あのくらい下手でないと、何かの奇跡のような美くしい何点かの作品を、のこす事は出来なかったかもしれません。
先日、フォーレのクアルテット(Oiseau(s)289.)が手に入りましたので、お送りいたしました。$4.98に、送料が三ドルいくらかでした(うっかりしてわすれてしまいました。)
この前にお送りしたレコード着きましたでしょうか? 小沢さんは、昨日と明日、サラトガのフェスティバルでフィラデルフィアSy.を指揮します。昨日は、(うしおだ ますこ)と、チャイコフスキーのコンチェルトをやったようです。
では又、お手紙いたします。
近藤竜男
八月十六日
藤枝夫妻が先日歸國いたしましたが、お会いになりましたか? 彼のニューヨーク滞在中、僕は引越やらで忙がしく、あまりゆっくり会う機会がありませんでした。お会いになりましたら、よろしくお傳へ下さいませ。