9月27日(1966年)

1966.9.27

山崎省三様
 ごぶさたいたしております。今年のニューヨークは雨ばかり降っていて、なんとなく東京のような感じです。暑さ、雨とも、10何年来の記録破りとか? 冬が案じられます。
 グッゲンハイムの「SYSTEMIC PAINTING」展を見て来ました。このタイトルの意味、あまりよくわからないのですが、ようするにシェープド キャンバスをふくむハードエッジの展覧会です。3ディメンションは入っていないので、ヒンマンなどはありません。ニューアブストラクションと言われている動きの絵画版(彫刻をジューシ ミユジアムでこの前やったので)と言ったところでしょう。
 僕としてはあまりすきな展覧会ではありません。パップ、オプなどの影響がハードエッジにもしみこんで来ていると思ふのですが、その非個性化と言ふか、そこ抜けな明るさ、單純さは大変魅力的ですが、僕は大変懐疑的です、—— ニューアブストラクションがと言ふよりは、パップアート以後のニューヨークについてと言った方が良いかもしれません。どうも良くわかりませんが、僕自身は今の身の廻りの動きには、否定的な姿勢になってしまふようです。パップアートからもう少し違った方向が出て来て良いのではないかと思ふのですが。あまり、こんな事にこだわっていると いつまでたっても個展も出来そうにありません。
 グッゲンハイムの展覧会には桑山さんの兄さんが出品しており、彼にとって大変良いチャンスだと思います。彼は彼なりの理論があって、もう長くこの仕事を續けているので、こう言ふかたちで認められるのは大変良い事だと思います。
 川島君が来年、ワーデル ギャラリー(岩崎さんのやった所)で個展を開く事にきまり、張切っています。このギャラリーは壁面が廣いので、彼のような大作主義には良いと思います。まもなく近代美術館の現代日本美術展が始まります。
 出版目録有難うございました。本、ちっとも讀まないので 何をえらんで良いかまよっています。幾つか選びますから、その時はよろしくお願いいたします。遠藤周作の「沈黙」はどうですか? 遠藤周作は顔の写眞を見たゞけでどうもキライになっちゃうのですけど、ずっと前に讀んだ「海と毒薬」がすきだったので。——良かったら送って下さいませ。
 僕の昔の絵をつかったレコード(レコードジャケット)が出ましたので、2枚お送りいたします。1枚斉藤さんにあげて下さい。写眞もしろうとの人がとって、印刷も悪く、サンザンですが。

グッゲンハイム美術館の「SYSTEMIC PAINTING」展
 ニューヨークのグッゲンハイム美術館では、9月より11月まで「SYSTEMIC PAINTING」展が開かれている。これはグッゲンハイム ミユジアムのキューレター、ローレンス アローエの選出によるもので、ニューヨークを中心とするニューアブストラクションの28作家、——28点の大作よりなる展覧会である。先程ジューシ ミユジアムで開かれた「Primary Structures」展の立体作品に見られる傾向と同じく單純なかたちと明快な色彩によって、あくまでカラッとしたハードエッジの作品群は、パップアート以後のニューヨークにおける もっとも代表的な傾向と言える。日本人作家として、桑山忠明が出品しているのをはじめ、ポール フェリー、ケネス ノーランド、ニール ウィリアムス、ラリー プン、フランク ステラ、等の作品による会場は、アメリカにおいて、長い間だつねに重要な動きとして續いて来たジオメトリックな方向が、こゝ1、2年のあいだに もっとも大きな勢力となった事を感じさせる。

メーシー デパート極東祭の現代絵画展
 ニューヨークのメーシー デパートでおこなわれている極東祭では、特にデパートの一部を展覧会場にあて、現代美術展として韓國と日本が作品を出品している。韓國が揃ったサイズの作品を「展覧会」として見やすく陳列しているのに対し、日本側は、林武の作品をはじめとする具象作家を主とする作品群に、等身大の人形、彫刻、菊の花にタイコ橋、と言ふ組合せはどう言ふ事なのだろうか? 2段3段に掛けられた作品もさる事ながら、ニューヨーク タイムス、一頁の大きさに出されたメーシーデパートによるジャパニーズ コンテンポラリー アート展の廣告に ジャパンアート フェスティバルの名が見られる事はショックである。

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