2月25日(1965年)

1965.2.25

 御手紙有難うございました。後数週間でお会出来る日を心待ちにしております。ニューヨークは、期待せづに入りさえすれば意外に面白い面があるのではないかと思います。
 昨日より「ザ レスポンシブ アイ」展がミユジアムでオープンしましたし、ニューヨークの動きを知る上にはもっとも都合の良い時期でしょう。
 「ザ レスポンシブ アイ」展は、ケネス ノーランド、モーリス ルイス、アーバス、ケリーと言ったハードエッヂの作家を中心にすえ、それにオプティカルアートの新人を集めた展覧会となっており、デュシャンから、ローシェンバーク、ジャスパー ジョーンズ、ポップアートと言ふ線とは別なもう一つの線。アーバス、バッセラリー等から、モーリス ルイス、ケネス ノーランド、ケリー等をへて、オプティカルアートと言ふ動きを強調しているのでは無いかと思います。
 いづれにしても ミユジアム モダンアートのキューレター、サイツがかなりの時間をかけて企画したものです。オプもポップと同じで 色々と言われながらもしだいに盛り上り、ちょうどこれから頂点になるよう、うまく出来ています。ミユジアムでは この展覧会を國際展とした事、ハードエッヂの作家を含める事などでその必然性を強調した点なかなか巧妙で、見ればなるほど新しい絵画の動きと納得されるように出来ています。
 日本現代美術展の件、リーバーマン氏が日本担当。ヨーロッパはドロスィー ミラーが受持ち、ニューヨークはジョージ モントゴメリーと言ふ人が実にマメに日本人作家のスタジオを見てまわり、作品写眞をとり、それをもとにドロスィー ミラー、リーバーマン、との三人で選考したそうです。おそらくヨーロッパ、ニューヨークは、ドロスィー ミラーのこのみによってきまる事になるのでしょう。
 モントゴメリーと言ふ人は、もとジャパン ソサイティーにいた人で最近ミユジアムに移り、ドロスィーの下でこの日本展のために働く事になったようですが、おもに写眞をとるのが目的でそれほど発言権は無いとも言われています。これだけマメに写眞をうつしてまわったわりに、最終的にドロスィーが見てまわったところは非常に少なく、白黒の写眞だけでそこまでしぼると言ふ事に少々疑問を感じますが、しかしそれは欲な言い分で これだけやれば非常に良心的と言って良いのでしょう。日本ではちょっと考へられないほどの熱心さです。
 僕のところへも来ましたが、最終的にはのこらなかったようです。うわさによると、日本でもなかなか大変だったようですが、ニューヨークでもちょっとした日本展旋風がまきおこり 一時はそのうわさでもちきり、怪情報みだれ飛びおかしな具合でした。
 ミユジアムで作ったリストを見て、そこにあった僕の名前を この作家の所へは行く必要はないと言って削らした人がいるそうで、その後その事実がわかり事無きを得ましたが、この日本展 あまり後味の良いものではありませんでした。こう言ふ事があると、人間の醜さが頭を出すようです。
 ところで このニューヨークの選考はまだ最終決定はしていないそうで まだ発表になっていません。僕は選考されるがわの作家なので、まだ発表になっていない現在、ミユジアムへ入選者の名を問合わすのは、どうも具合がわるいようなので、山崎レイ子さんにたのみました。と言ふのは、モントゴメリー氏と親しく、日本展についてもモントゴメリー氏と連絡をとっていた人なので、彼女からミユジアムに問合してもらいましたところ もうほとんど決定はしているけれど ニューヨークの人選の結果をサンフランシスコのミユジアムとの照合もまだ終っていないし、万一の変更も考へられるので、正式発表はまだ出来ないとの事、特に美術雑誌のようにパブリックのものは、ミスがあるといけないから最終決定後にしてくれとの事で、どこにもまだ発表していないだけに今すぐと言ふのは無理のようです。発表出来る段階になりしだいすぐ連絡してくれるそうで、わかりしだいお知らせします。
 この展覧会をニューヨークでやるかどうかと言ふ事自体まだ決定していないと思います。この日本展の場合、ニューヨークのミユジアムでやる事になる可能性が強いようですが・・・(これと同じ企画で、イタリー、スペイン等あったようで、結果の良いもの、たとへばスペイン等のようなものだけ、ニューヨークのミユジアムでやるそうで、日本展をニューヨークでやるかどうかは、まだ正式発表はない段階です。それまでサンフランシスコをふり出しに巡回展をやるわけです。)
 山崎さんのニューヨーク着の時は時間御連絡下さい。電話番号はUL2-8210です。
僕は夜のアルバイトをしていますので午前中から午後一時頃までと 夜中の十二時半から三時頃までにお電話いたゞければ幸です。
 通訳は実はまったく自信がありません。重要な事柄は正直いって無理だと思います。僕は特に語学力にかけていると見え、さっぱり上手になりません。晝間はあいていますし、夜も或るていどは時間取れますから、それ以外の事、ギャラリー、ミユジアムその他を見てまわる事や 日常の事ぐらいでしたら出来るだけの事は何んでもやります。あまり役に立たなかった時は、平素の不勉強お許し下さい。
 では又、お会した時にゆっくりお話出来るのを楽しみにしております。草々

手紙, 2月25日(1965年), 1965.2.25手紙, 2月25日(1965年), 1965.2.25
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