4月27日(1965年)

1965.4.27

山崎省三様
 お手紙有難うございました。ニューヨークの事を書かれるとの事、楽しみにしております。とりあえづご質問の件 ご返事いたします。
1. アルバイト
 実はこれは、ニューヨークのビジターとスチューデントビザの(特に絵かきとは限りません)人達のタブーと言っても良く、あまり公表したがりません。これは「学校へ籍を置く理由」ともつながって来るのですが。——
 シチズン、あるいはパーマネントレジデンスを持っている人は別として 現在アメリカに居る日本人は B、F、E、H の4種類のビザのどれかであるわけです。
 Bはビジター。視察、觀光等、旅行を目的とするもので 通常1年以上はエックステンション出来ません。又、Bビザの人はぜったい働けません。もしばれたら強制送還です。そこで Bで入國し学生(F)にエックスチェンジする人が多いようです。
 Fはスチューデント。これは学校よりウォーキング パミットが取れた場合に限り それをイミグレーションに提出し、限られた時間内(夏休みとか授業にさしさわりとならない時間に限り)働く事が許可になります。たゞし、手續きがめんどうであるし、イミグレーション自体が 外國人が働く事を喜こびませんので ほとんどのアルバイト学生はモグリで働いています。これもバレルと罪になり、最悪の場合は強制送還となります。
 Eは日本に本社をもつ会社の社員などの場合。会社が保証しているのですから、会社が許可しているあいだは何年でもEビザでいられるわけです。これは働く事が目的ですから働く事にトラブルはありません(高島屋に働いている人達、商社、新聞社の人達等)。
 Hはアメリカの会社に働く場合。多くは仕事をおぼえる目的あるいは一つの目的のため(ビルを立てるとか、何かを設計するとか)。これを取るためには 勞働局との関係やら色々とめんどうな手續きがひつようですが こゝでは必要ありませんのではぶきます。
 以上のようなわけで、HとEビザの人は働く事に問題ないのですが 画家でこのタイプのビザをもっている人は少なく 高島屋で働いている数人とあといくらもいないと思います。ようするに Eビザを出してくれるところでわれわれの出来る仕事はなかなかありません。それに8時間はたっぷり働かなければなりません。
 日本人のほとんどの画家は(パーマネントレジデンスのない人は)FかBです。ビジターでも1年たってファイナルエックステンションとなった場合は 一度國外へ出て(メキシコ、ヨーロッパ、カナダ等)又戻ればビザが新らしくなりますから、又1年いられるわけです。しかし身分が不安定なため、多くの場合スチューデントにかわるわけです。
 スチューデントですとまづ4年ぐらいは、トラブルさへなければ安全です。僕は今度5年目のエックステンションで心配でしたが無事通りました。僕の場合も(木村さんのように)そろそろ学生としてでは具合が悪くなって来たようで なやみの種です。多くの人が たゞニューヨークへ居る資格を維持するためだけにも多くの神經をすりへらすわけです。
 われわれにとってパーマネントレジデンスを取る事が最大の魅力ですが よほどのチャンスに恵まれないと困難です。これはアメリカ人と結婚すれば取れますが、これはわれわれは無理。
 後は、アメリカの会社などで日本人としての特殊技能をぜったい必要とした場合(ようするにアメリカのために貢献するべき人材であり、しかもアメリカ人の中からはその人材がみつけられなかった場合)。
 もう一つ、有力なギャラリーをとった場合。ギャラリー、ミユジアム等の強力なバックアップがあれば可能です。
 さて、アルバイトの事ですが ビジター、学生、はほとんどがもぐりのアルバイトであるため、それがおゝやけになる事を極度にきらいます。ようするに イミグレーションから日本のアメリカ大使館へつながる線上に浮び上るとまづいわけです。山崎さんが書かれる時もその点を考りょした上でお願いいたします。出来る事なら収入に関する件はふれないでもらいたいと言ふのが ニューヨークでアルバイトをしている人の気持です。
 今はだいたい1時間1ドル50セント、税金を引かれると1ドル25センか30セントぐらいが最低で、人によっては1時間5ドルぐらいのアルバイトをしている人もいます。しかしこれは定収入ではありませんから、おそらく平均して、手取りが1時間1ドル30セントから2ドルぐらいのあいだだろうと思います。働く時間も4.5時間から8時間ぐらいまで、人によっては10時間も働く人もいますがこれは例外です。内容はレストラン、日本食品店、会社の荷物の梱包、大工等、色々ありますが、この働いている場所がイミグレーションにわかると具合が悪いのです。先月も或るレストランがイミグレーションの手入れをくい、だいぶあわてたようです。
 アメリカ人の会社へ入ると言ふのは 前にもふれたようにビザの関係で特殊な場合をのぞき不可能です。いづれにしても自分の意思とは関係なく法によってしばられます。
1. 住居費
 45ドルぐらいから200ドルぐらい。200ドル出している日本の絵かきは少ないでしょう。家のあるセクション、廣さ、等によってレントが違って来るわけで、ダウンタウン(ニューヨークだけはダウンタウンは下町と言ふ意味)のイーストサイド等は安いですが、女の人にはちょっと危険でしょう。40ドルから50ドルぐらい。(石川さんの所等)
 マンハッタンの中で 絵がかける廣さでセクションの良い所と言ふと150ドル以上はするでしょう。僕のところは109ドル、そのかわり、マンハッタンから少々はづれています。以上はアパートですが、ロフトに住んでいる画家が多いわけで ロフトとは元来人が住むところではなく、オフィス或いは倉庫として使われるところです。そこを借り、色々と手を入れて住めるようになおすか、あるいは前の人が出た後をその人から買ふ(設備費)わけです。住むようには作ってないところなので、シャワーをつけたり、ガスを引いたりすれば500ドルから1000ドルはかゝります。そのかわりスペースは十分です。ロフトにもヒーターの入っているところと入っていない所があり、ヒーターの無い場合はストーブを入れて暖をとるわけですが 暖房費が月50ドル近くかゝり、しかも火がなくなると 部屋が廣いだけに零下のさむさになります。(冬のみ)
 家族のある人がヒーターなしのロフトに住む事には色々な困難があります。たゞし ロフトにも住んで良いロフトと住めないロフトがあり、消防署の許可がとれたところにかぎり住めるわけです。先日 ローゼンクイストのところへ行った時にあったAIRのマークはその許可です。後はモグリで住んでいるわけで ばれるとおい出されます。住めないところでも仕事場としては使えるわけで 多くの場合家具などをあまりおかづ インスペクターが来た時も住んでいないと言ふわけです。荒川さんのところへ行った時 歸りに来ていたのがたぶんインスペクターではなかったかと思いますが。
 ヒーターがあって住めるロフトと言ふのが理想ですが もうそう言ふロフトをみつけるのはなかなか困難です。
 僕もロフトをだいぶさがしましたがなかなか良いのがみつからづ、そのまゝになっています。場所によっては夜中じゅうトレーラーが走り、まったく眠れないと言ふようなところ。入ったけど、きれいな水が出ないところと色々と欠点が出て来る場合もあります。
 それと 昨年から今年にかけて都市計画の一環として多くのロフトが壊されており、川島君やタダスキー君の所も今年中にこわされる事となるはづです。今のところ、どこが壊されるかはっきりせづ 新しいロフトをとって お金をかけてすぐ壊されてしまふのではつまらないし、もうしばらく様子を見ようと思っています。
 ロフトは、50~60ドルぐらいから200ドルぐらいのあいだがふつうでしょう。これも6、7年前に入っている人は7~80ドルでも結構良いところに入っています。最近では150ドル出しても暖房も無い場合が多いようです。
 河原さん平岡さんはさっそく連絡しておきました。
 日本人作家300人と言ふのはちょっと多すぎるのではないでしょうか? ビザの関係で一応絵かきと言ふ事にしてアートスクールへ行っている人なども入れゝば、300人ぐらいになるかも知れませんが 一応絵かきと言える人は 3、4点ぐらいしか作品のない人を入れても せいぜい7~80人ぐらいではないかと思います。
 今日はとりいそぎ、これだけ御返事いたします。乱筆乱文にて失礼しました。敬具
近藤竜男

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