9月19日(1964年)

1964.9.19

山崎省三様
 なつかしい物ばかり、色々と送って下さり 久しぶりで「日本の味」をなつかしく思い 十分、堪能いたしました。
 ニューヨークも いよいよシーズン オープンで 活気が出て来ました。毎年の事ながら 又、新しいギャラリーと、消えて行くギャラリーとが出て来る事でしょう。最近の我々の話題は、やはり、ミユジアム モダンアートの「アイ リスポンスイブル」の作家選考等で、これは、國際展になるそうで、ニューヨークの日本人からは、桑山君兄弟等を、ピックアップしたようです。日本からは、だれか選考されましたか? オノザトさん等がその範疇に入ると思いますが。ヨーロッパの選考は、もう、おわったとか? この系統の仕事をしている人にとっては今が一番のチャンスでしょう。いづれにしても ポップアートがもう行くところまで行ったようですし、これからの一年ぐらいは、次の新人の出るチャンスの年かも知れません。僕は、新しい作品が6、7点ほどなので、せめて 15点~20点は出来なければ 見せるわけには行かないと思います。しかし 僕の仕事は、「チラチラ派」の仕事とは、本質的には違いますし(かなり近づいてはいるのですが) 今度の波に乗ろうと言ふ気持はありません。
 桑山君の弟さんは、3年ほど前に来た人で 絵に対するファンデンションは、ほとんど無いのですが、ニューヨークへ来てから 同心円の仕事を始めました。(正方形のキャンバスに 3色あるいは4色ぐらいで同心円を書くだけ) 今年に入ってから、ポップ以後の動きとして注目され 今度、まったく突然 クーツ ギャラリーで、ピックアップしました。クーツと言えば ホフマン、マッキャレリー、スガイ、ピカソ等のいる一流ギャラリーで 新人を取るとは、だれも予期しなかっただけに 皆 大変おどろきました。もし個展をやる事になれば ちょっとした話題になるでしょう。ポップとそれ以後の仕事に関しては、なまじ 絵に対するファンデンションは、無い方が、はるかに強いのではないかと思います。
 おそらく、今年のギャラリーは、ハードエッヂから、イリュージョンのあいだの、色々の形ちの新人が出て来るのではないか などと考へています。アブストラクト エックスプレションの作家にとっては 今は、もっともつらい期間だろうと思います。
 パップアートの後は心理的なものが来るのではないか と言ふような事も言われていたのですが、逆に ますます人間性を排除する方向にむかっているようです。そして、それは モンドリアンのような”生まじめさ”とは逆に 少々、ふざけたような感じであったり、ナンセンスである事を強調(強調すればナンセンスでなくなりますが)したようなもの、あるいは、痙れん的?なもの等であるようで、もし、モンドリアンを「つまらない絵」とすれば、これは、「面白い絵」ではあります。そして、この生まじめさに対しての「面白さ」は 賣ると言う事には、必要な事なのでしょう。
 人間の価値判断など まったくあいまいなもので、僕自身も まったく混乱してしまふ事がたびたびです。「面白い」と言ふ事から、判断すれば 何んだって或る角度から考へれば、どこかで面白くなるのだし、その面白さは、場合によっては、いがいに新鮮な時もあるわけです。パップアート以後、我々の目がどこかで変ってしまったことはたしかで、アブストラクト エックスプレションがつまらなく見えるのも事実です。理屈ではなく、本当につまらなく見えるのだから、どうしようもありません。しかし、一方、アブストラクト エックスプレションを 非常に客観的に見れる地点に自分の目がなってしまっただけに、良いものと悪いものが、はっきり見えて来る事も事実です。
 ポロックの絵の新らしさが、すでに 新らしさと言ふ視点からは見れなくなった時、その作品の中には 意外に つまらない作品が多いように僕は感じます。
 僕自身が今は大変混乱していて、混乱のまゝで仕事をしているわけですが、なんとなく いらだゝしい毎日です。だから文章を書いても そのたびに違う事を書いてしまいそうです。
 今度の原稿もつい書けぬまゝに間際になってしまい、結局たゞ羅列するだけの雑なものになってしまいました。僕自身にとっても大切な原稿なのですから、もっと時間を掛けて、まとまった文章を書かなければならないのに なかなか、それが出来ません。頭の中がバラバラなのです。色々とへりくつを言ったところで、結局は、ダラシがないのだと反省しています。こんなに 又とない、チャンスをあたえていたゞきながら、いつも中途半端になってしまい 本当に申訳なく思っています。
 でも一度は是非本当に しっかりしたものを書いて見たいと思っています。もし何か良い機会がありましたら よろしくお願いいたします。
 今月は、あまり変った事がなく、ワールド トピックの原稿になるようなものが 見つからないかも知れません。美術手帖の海外トピックを見ると、たとえば ステイブル ギャラリーのマリソル・エスコバルの個展等も出ていますが、この程度の出来事(たとへば、バーホールの箱の個展とか、マリソル・エスコバルの個展、あるいは、オルテンバークの今度の個展で きれをぬいあわせた作品に変ったと言ったような事)でも芸新のワールド スナップに記載するようでしたら、お送りいたしますが?
 では又、ゆっくり御手紙いたします。
 色々のお心尽くし有難とうございます。感謝いたしております。
近藤竜男

手紙, 9月19日(1964年), 1964.9.19手紙, 9月19日(1964年), 1964.9.19手紙, 9月19日(1964年), 1964.9.19手紙, 9月19日(1964年), 1964.9.19手紙, 9月19日(1964年), 1964.9.19
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