11月4日(1963年)

前略、
　ヨーロッパの旅行、いかゞでした? 一度には整理しきれないほどの色々な事物を吸収されていらした事と思います。その内ヨーロッパでの印象的、御傳へいたゞければ幸です。
　ニューヨークは、美術家連盟の会議やら、その他の事で、づいぶん多くの日本人作家の出入りがありました。僕のアトリエも結構にぎやかで、ちょっと日本へ歸ったような気分になりました。僕の友人も数人ニューヨークへのこる事になり、こゝのところ少々、多忙で原稿も後れてしまいました。次の手紙でニューヨークその後の様子等御傳へいたします。
　Emily Lowe Competitionなるコンクールがあり、出品して見ましたところ受賞しました。ニューヨークへ住んでいる二十五才以上の作家によるオイルペインティング、と言ふ事で、30×40(INCHES)から40×50のあいだと言ふ大きさの制限もありました。10人の受賞者を選出し、賞金をくれて展覧会を開くわけですが、お金はまだ受取ってないのでわかりません。展覧会は、マジソンアベニューにあるギャラリーで来月4日より30日まで受賞者展を開きます。思いがけない事ですが、これが僕のニューヨークでの最初の発表となるわけです(一点だけですが)。
　原稿、モーリス ルイスの回顧展とホフマン展を御送りいたします。モーリス ルイスは昨年より、大変関心を持って見ていましたが、あまり作品を見る機会が無かったところ、今度の展覧会で生前の作品をまとめて見る事が出来、僕個人としては大変感動しました。この人の絵を日本へ持って行って見たら、はたして良く見えるかな? などとも考へましたが・・・　「アメリカの作家」の一言につきると言ふか、アメリカでなければぜったいに生れなかった作品でしょう。
近藤竜男