4月12日(1962年)

1962.4.12

山崎様 
 ライトのドロウイング展と ジオメトリック アブストラクション イン アメリカの寫眞を御送りいたします。
 ライトのドロウイングは図面が大変うすく なかなかうまく写眞に写りません。
 ジオメトリック アブストラクション——の方は 二枚だけ作家の名前をわすれてしまったのがありますが—— 会場写眞としておきました。もし、御使用の折は適当におえらび下さい。
 僕はこちらへ来て、ちょっと意外だった事は、アクションやネオダダ的な動きとは別に ジオメトリック アブストラクションの持つ勢力の非常に大きいと言ふ事です(もっとも表面はジオメトリックでも内外には、表現主義的な要素がかなり強い作家が多いのですが)。
 今度の展覧会を見ると こう言ふ充実した展覧会として展示出来るだけの物が30年間脈うって流れていると言ふ事。そして、その中から國際的な一流の若い作家がぞくぞくと生れていると言ふ事は驚きです。
 かれらがそれぞれの自分の立場でせい一ぱい頑張っていると言ふ事は、言いかえれば つねに自分に対抗する抵抗体を自身に感じて仕事をしていると言ふ事。アクションで賣出しているベテラン作家も おそらく、隣りを並んで走っている、ネオダダや、ジオメトリック アブストラクトの作家をいつも身に感じている事でしょう。
 そこに 日本の現代絵画の根なし草的な要素を感じます。
 アメリカと言ふ國は傳統のない國ですが それ故にいつのまにか 現代の傳統のような物が出来て来ているような気がします。
 この後、グッゲンハイムのレジエとタピエスの写眞を御送りいたします。
 レジエ等はカラーで面白い写眞が出来ますが・・・ もし必要でしたら御知らせ下さい。お送りいたします。
 ニューヨークも雷がなって、早足で春がやって来ました。日本は今、櫻の頃ですね。ワシントンの櫻がすばらしいようですが どうもまだ花見に出かけるような気分にはなりません。
 川端さんのベネチアの作品は出来上り、もう送りました。この前の個展の作品をますます簡潔にした感じです。どう言ふ評價がされるかと楽しみです。
では、又お手紙いたします。
近藤竜男

手紙, 4月12日(1962年), 1962.4.12手紙, 4月12日(1962年), 1962.4.12手紙, 4月12日(1962年), 1962.4.12
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